スリーシェイクがマルチプロダクト戦略を選択する理由
スリーシェイクは、創業10年目(未上場)で、4つのサービスを展開しています。
- SRE構築総合支援サービスの「Sreake(スリーク)」
- クラウド型データ連携ツールの「Reckoner(レコナー)」
- セキュリティサービスの「Securify(セキュリファイ)」
- フリーランスエンジニア向け人材紹介サービスの「Relance(リランス)」
これらはすべて利用用途が異なるサービスで、カスタマーセグメントも異なる構成になっています。いわゆる「マルチプロダクト戦略」です。
さらに言うと、SreakeやRelanceはいわゆる労働集約型ビジネスであり、ReckonerやSecurifyはSaaS型ビジネスです。マルチプロダクトであり、ハイブリッドビジネスモデルを採用しています。
前提としてシングルプロダクト戦略は経営戦略として秀逸です。1つのプロダクトに集中することは、ヒト・モノ・カネが限られたスタートアップにおいてとても有効な戦略です。叶えていきたいVision/Missionに対して1プロダクトで解決できるのであれば、まずはこの戦略を検討するのがベターでしょう。
一方で、スリーシェイクのVisionは「インフラの世界でイノベーションを起こし、社会になくてはならない存在になっていく」、Missionは「労苦〈Toil〉を無くすサービスを適正な価格で提供し続ける」というゴールを掲げています。インフラというレイヤーや労苦(手作業であり、長期的な価値を持たない業務)をなくしていくには、ワンソリューションで解決していくことは厳しいです。
そういう意味で、DevOps/クラウド導入支援からスタートしたスリーシェイクですが、創業時からシングルプロダクト戦略を採用する予定はありませんでした。
マルチプロダクト戦略の難しさと挑戦
マルチプロダクト戦略を実行していく上での難しさは、プロダクトカテゴリーが異なることによるセールスとマーケティングの縦割り構造(コスト増加)にあります。
プロダクト開発リソースは、直列に実行していくケースが多いので、資金や採用は余裕が作りやすい一方で、PSF/PMFに向けたビジネスチームはプロダクト毎に立ち上げていく必要があります。クロスセルする以前に単品で数字を作るフェーズに到達できず事業撤退することが多い印象です。スリーシェイクにおいてもここが非常に苦労した点でした。
この課題に対して、スリーシェイクは独自のアプローチを展開してきました。まず重要だったのは、「主力事業の安定化」です。Sreakeという強固な基盤事業があったからこそ、他の事業展開が可能となりました。SREの内製化支援事業は、継続的な収益を生み出しながら、同時に新規事業のアイデアを発掘する「イノベーションハブ」としての役割も果たしていました。
次に「段階的なリソース配分」を実践してきました。新規事業は一度にすべて立ち上げるのではなく、市場の成熟度と自社の体制を見極めながら順次展開しました。2018年にSreakeが確立された後、2021年にRelance、続いてSecurify、そしてReckonerと、計画的に事業を拡大していったのです。
4事業の中心にある想い
スリーシェイクの4つの事業はそれぞれ異なりますが、その中心にある想いは一つです。SREの内製化事業を享受してくれる企業には最大限ベストな状態を実現してあげたい、そしてSRE事業を技術者として究極までにやりがいがあって楽しい事業にしたいということです。
しかし、この実現を阻む「労苦(Toil)」が存在しました。それがまさにSRE事業以外の3つの領域だったのです。
セキュリティ領域(Securify)
そもそも専門のセキュリティエンジニアの人口が少ないです。その上、業務はたくさんあるのに、実際は人力を使う必要のない雑務やルーティンワークに追われ、彼らが専門性の高い業務に取り掛かる時間が少なくなっています。これによってお客様の環境がなかなか改善されずにいました。
スリーシェイクはDevOps支援事業からスタートし、SREのプロフェッショナルに昇華しました。DevOpsとは、ソフトウェア開発に向けた最高の開発環境を作るために、従来ソフトウェア開発とインフラ(運用)で分断されていた人、手法、ツールを融合することで、継続的開発、柔軟な連携、透明性を確保する手法であり、DevOpsが労苦〈Toil〉を撲滅する最大のソリューションです。
一方でインフラレイヤーだけが労苦から開放されても、社会全体の労苦は減りません。セキュリティ領域の労苦をDevOpsで習熟してきた手法を拡張し「ソフトウェア開発や運用に向けた最高のセキュリティ環境を作ること」を提供価値とすべく、セキュリティ(DevSecOps)分野に挑戦しました。
データ領域(Reckoner)
エンジニアリングを進める上で、データの統合や整備は切っても切れない業務です。しかし、要件が非常に流動的で実際にやってみないとわからないことが多く、エンジニアからするとやり直しの可能性が多い業務のため心理的負担が大きいです。
そういったエンジニアの疲弊を解消するために、エンジニア以外の担当者が直接自分たちでデータ連携をできるツールの必要性を感じ、Reckonerを開発しました。これはまさにデータ領域における「インフラをシンプルにしてイノベーションが起こりやすい世界を作る」というミッションの具現化です。
人材領域(Relance)
そもそも企業側にエンジニアがいない場合も多く散見されました。実績のあるエンジニアが多数所属するスリーシェイクだからこそ、満足いただけるエンジニア人材を紹介できるようにしたいと考えました。
特に、全ての方がクリエイティブな業務に従事できる社会を目指すために、適切なカルチャー、適切なエンジニア供給/育成、適切なITソリューションの3点が最低限存在しなければ実現し得ないと考えています。Relanceはこのうち「適切なエンジニア供給/育成」の実現を目指しています。
SREの内製化支援を中心とした独自のプロダクト戦略
Securifyも、Reckonerも、Relanceも、すべてSreakeを通じたSRE実践の現場で直面したお客様の課題から派生して生まれたサービスです。SREという最前線に立ち続けてきたからこそ、ニュースになっていない・顕在化していないニーズを事業化してきました。
SREの内製化支援事業は、新旧様々なテクノロジーに触れていくだけでなく、お客様のエンジニアリング組織の課題に深く向き合う事業です。このため、SREを実践していくと、必然的にエンジニアリング領域の構造的な課題にぶつかる機会が多くなります。
例えば、クラウド環境を構築しても、適切なセキュリティ対策がなければ常にサイバー攻撃のリスクを抱えることになる。データ統合や分析を民主化して貴重なエンジニアリソースを解放しなければ、組織の成長は鈍化する。そして、これらを担うエンジニア人材がいなければ、優れた設計も絵に描いた餅になってしまう。といった課題です。
こうした状況に、私たちは自分自身の目で見て、手で触れ、五感で感じる機会を得てきました。この「現場感覚」が明確な課題設定となり、プロダクト開発の核となり、マルチプロダクト戦略の成功を支えています。
他企業での再現が難しい理由の一つは、私たちが開拓してきたマーケットの新しさにあります。資本力のある大手企業でも、現場経験がなければ正確な判断や意思決定ができません。
また、インフラレイヤーは投資回収サイクルが長く、マーケット予測も難しいため、専門家でさえ正確な判断が難しい領域です。しかし、SREの内製化支援を積み重ねてきた私たちには、不確実性の中でも次の一手を打てる「現場感覚」があります。これがスリーシェイクの強みであり、マルチプロダクト戦略の核心なのです。
エンジニアの世界をもっと変えたい
どの事業も、「エンジニアの世界がもっと変わってほしい」という想いで立ち上げています。スキルアップしようとか生成AIでエンジニアリングをすべて自動化しようとか、そういうことではありません。今あるリソースや今ある皆さんのスキルセットでも、ものすごく社会を変えるパワーはあると思っていて、そのための仕掛けをしていくのが、私たちが目指している、提供している価値です。
技術力のあるスリーシェイクだからこそ作れるプロダクトやサービスに長い時間をかけてコミットして、エンジニアリングのトイル(労苦)が無くなるようなサービスを提供し続けていきたいと考えています。
エンジニアリングレイヤーに横たわる人、手法、ツールがサイロ化されて労苦が発生しているプロセスをシンプルにし、サービス機能開発に集中できるソリューション(SRE、DevSecOps、DataOps、HROps)を提供していくこと。これがスリーシェイクの4事業の中心にある共通の理念です。