クラウドネイティブ時代の幕開け
転機となった2018年:SREという専門性で突き抜けた「Sreake」誕生
2017年から2018年にかけて、世界のIT業界は大きな潮流の変化を迎えていました。コンテナ技術の発展、特にDockerの普及とKubernetesのオーケストレーション技術の台頭により、「クラウドネイティブ」という概念が急速に広がり始めていました。
日本国内では、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が経済産業省の「DXレポート」によって広まり始めた時期でもありました。しかし、多くの日本企業ではクラウド活用はまだ初期段階にあり、本格的なクラウドネイティブへの移行はごく一部の企業に限られていました。
こうした状況の中、私たちスリーシェイクは創業から3年目を迎え、AWS構築支援やDevOpsコンサルティングを中心に事業を展開していました。顧客数は徐々に増えていたものの、他のSI / MSP企業との差別化が課題となっていました。
SREとの出会い
そんな中、私たちが注目したのが「SRE(Site Reliability Engineering)」という考え方でした。2016年にGoogleが「Site Reliability Engineering: How Google Runs Production Systems」という本を出版し、米国ではSREという役割や手法が急速に注目を集めていました。
SREとは、システム運用の自動化や効率化、信頼性向上を実現する手法で、従来の「システムを壊さないよう慎重に管理する」という考え方から、「ソフトウェア技術を使いながら運用そのものを改善し続ける」という発想へのパラダイムシフトを意味していました。
当時の日本ではまだSREという概念自体が浸透しておらず、「SREって何?」という反応が大半でした。しかし、私は直感的に「これって今我々がやっていることと一緒では?」—これこそが我々が提供できるコアバリューではないかと考えました。
専門性への大胆な賭け
2018年、私たちは大きな決断をします。それまでのインフラ構築支援から、敢えて「SRE」という専門性に集中する決断をしたのです。
社内での議論は白熱しました。「まだ認知度が低すぎる」「説明するのが難しい」「お客様に伝わるだろうか」といった懸念の声もありました。実際、当時の日本では「SRE」という言葉すら知られておらず、先行事例もほとんどありませんでした。
それでも、私たちは「SREはもっと広まれば、もっとエンジニアリングはシンプルになり、体験も良くなる」という考えを持ち、敢えて未開拓の領域に踏み込む決断をしました。こうして日本初のSRE特化型支援事業「Sreake(スリーク)」が誕生したのです。
Sreakeというネーミングには、「3-shake」と「SRE」を掛け合わせた意味を込めました。サービスのロゴやブランディングにもこだわり、「SREを日本に広める」という使命感を持って立ち上げました。
転機となった大型案件
Sreakeを立ち上げて約半年が経った2018年後半、転機となる案件が舞い込みました。国内最大級の決済基盤に関する案件でした。これは単なるインフラ構築ではなく、SREの考え方を取り入れた大規模なクラウドネイティブアーキテクチャの設計と実装、またカルチャー定着を目指すプロジェクトでした。
この案件は、当時10数名規模のスリーシェイクにとって圧倒的なスケールの挑戦でした。これまでのプロジェクトとは桁違いの規模と責任が伴うものでしたが、私たちの専門性への賭けが、ここで大きく実を結ぶことになったのです。
プロジェクトでは、大規模なマイクロサービスアーキテクチャの設計・実装、継続的なデプロイ仕組みの構築、監視・アラートシステムの整備、運用プロセスの自動化など、SREの考え方を全面的に取り入れました。
驚くべき成果
プロジェクトの成果は私たちの期待以上となりました:
- リリーススピードの劇的向上:新機能のリリースが月1回程度から、週に複数回可能に
- 障害対応の高速化:システム障害への対応時間が従来の半分以下に短縮
- 運用効率の大幅改善:人手による作業が大幅に削減され、運用コストが大きく削減
- システム安定性の向上:障害の発生頻度が大幅に減少し、サービス品質が向上
こうした定量的な成果が、SREアプローチの有効性を明確に示しました。大手企業との成功事例は、スリーシェイクの知名度と信頼性を一気に高めることになったのです。
会社の急成長
この成功を契機に、スリーシェイクは急成長フェーズに入りました。売上高は2017年から2019年のわずか2年間で5倍以上に成長するという急速な拡大を遂げました。社員数も10人程度から30人以上へと急増し、オフィスも手狭になったため、2018年10月に馬喰横山へと移転。より広いスペースで創造的な仕事ができる環境を整えました。
何より大きかったのは、「日本のSREを引っ張っている集団」としての評価を市場から得られたことです。業界メディアでの取り上げや、カンファレンスでの登壇依頼が増え、SREという言葉とともにスリーシェイクの名前が知られるようになりました。「クラウドネイティブ」「SRE」といったキーワードで検索すると、スリーシェイクのコンテンツがヒットするようになったのも、この時期からです。
スリーシェイクの競争優位性
SREという新領域への特化により、スリーシェイクは従来のIT企業とは異なるポジショニングを確立しました。
従来のIT企業が「システムを作ること」に重点を置いていたのに対し、私たちは「システムを継続的に改善し、価値を生み出し続けること」にフォーカスしました。お客様から見れば、「システムを安定させつつ、新しい機能をより速く提供できる」という明確な価値を得られるようになったのです。
この差別化は単なる技術的な違いではありません。ビジネスそのものの考え方の違いでした:
- 従来の考え方:「故障しないシステムを作る」「変更リスクを最小化する」
- SREの考え方:「故障を前提としたシステムを作る」「変更を加速しつつリスクをコントロールする」
この発想の転換が、お客様のビジネスに大きなインパクトを与えたのです。
業界への影響と社会貢献
Sreakeの成功は、日本のIT業界にも一定の影響を与えたと考えています。それまで「運用」や「保守」として軽視されがちだったインフラ領域に、エンジニアリングの視点で高度な価値を付加する考え方が徐々に広がっていきました。
当初は「SREって何?」と首をかしげていた企業も、次第にその重要性を認識するようになり、SREチームの設置やSRE的な取り組みを始める企業が増えていきました。
また、スリーシェイクがSREの考え方を日本に広める活動として始めた「SRETT(3-shake SRE Tech Talk)」というコミュニティイベントは、多くのエンジニアが集まる場となり、業界全体のSREに対する理解向上に貢献しました。このような取り組みにより、私たちは単なるビジネス的成功を超えて、業界全体の発展にも寄与することができました。
次の展開への布石
Sreakeの成功体験は、その後のスリーシェイクの事業展開にも大きな影響を与えました。SREを実践する中で見えてきた様々な課題が、新たなサービス創出のきっかけとなったのです。
例えば、クラウドネイティブ環境におけるセキュリティ課題の深刻さを認識したことが、後の「Securify」サービス誕生につながりました。また、データ連携の複雑さに直面したことが「Reckoner」開発の原点となりました。
さらには、SREやクラウドネイティブ技術に精通したエンジニアの圧倒的な不足という市場課題を実感したことが、「Relance」というエンジニア特化型の人材紹介サービスの立ち上げへとつながっていきました。
つまり、2018年のSreake立ち上げは、単一のサービス誕生というだけでなく、今日のスリーシェイクの4事業全ての源流となる転機だったのです。
10年を経た現在の視点から
2025年、創業10周年を迎えたスリーシェイクにとって、2018年のSreake立ち上げは間違いなく最大のエポックメイキングでした。専門性に賭ける決断、大型案件での成功、そして急成長—これらの経験は、会社のDNAとして今も受け継がれています。
当時は「誰もやっていないからこそ価値がある」と信じて飛び込んだSREという領域は、今では多くの企業が導入を進める一般的な手法となりました。時代の変化を敏感に捉え、先駆者として道を切り拓く—そんなスリーシェイクの企業文化は、Sreakeの成功体験から生まれたものと言えるでしょう。
今も受け継がれる価値観
Sreakeで培った「挑戦」「専門性」「顧客価値」という価値観は、現在のスリーシェイクにも深く根付いています:
- 挑戦する勇気:まだ誰も取り組んでいない領域にこそチャンスがある
- 専門性の追求:広く浅くではなく、狭く深く突き抜ける
- 顧客価値への執着:技術のための技術ではなく、お客様の成功のための技術
これらの価値観が、その後の新サービス開発やビジネス展開の指針となっているのです。
未来への展望
これからの10年も、IT業界のさらなる変化を見据え、常に一歩先を行く挑戦を続けていきたいと思います。生成AI、エッジコンピューティングなど、新たな技術領域が次々と現れていますが、私たちは常に「この技術をどう活用すれば、お客様のビジネスに真の価値を提供できるか」という視点で取り組んでいます。
Sreakeの経験が教えてくれたことは、「技術的な可能性だけでなく、市場のニーズと自社の強みが重なる点を見極めることの重要性」です。この学びを活かしながら、スリーシェイクは今後も「インフラをシンプルにしてイノベーションが起こりやすい世界を作る」というミッションの実現に邁進していきます。
おわりに
振り返ってみれば、2018年のSreake立ち上げという決断は、「成功するかどうか分からないが、信じて突き進む」というチャレンジでした。その挑戦が実を結び、会社の転機となったことは、大きな自信となっています。
1つの専門性を突き詰めて、可能性を切り開く—これからも、時代の一歩先を見据え、社会に新たな価値を提供し続けていく。それがスリーシェイクの使命です。
私たちは常に挑戦し続ける企業であり続けたいと思います。